(前略)のちほど、お聴きいただく曲は、鈴木亜美さんの『それもきっとしあわせ』というシングルが出てまして、それの曲解説、というのが今日の主題なんですが。その前にですね、ちょっとこの話にも関係するので…先週ね、ゲストに来ていただいた中川翔子さん、通称しょこたん。しょこたんがね、アニメソングで今後歌っていきたい曲ということで『テレポーテーション』というね、エスパー魔美の曲、すごい良い曲でしたけども、選んでもらったんですが。実はね、アイドルソングのほうでも一曲選んでいただいておりまして。それちょっと時間が無くてかけられなかったんですが。もちろんしょこたんは、アイドルソングにもすごい詳しくてですね、思い入れもすごくあって。しょこたんが選んだ曲がですね、「ああ、しょこたんがこの人の曲を選ぶのか」というのが、僕的にはすごく興味深かったので。まずは、そのしょこたんの選曲をちょっと聴いていただきたいと思います。岡田有希子で『花のイマージュ』。

(岡田有希子『花のイマージュ』OA)

はい、お聴きの曲は、岡田有希子さんで『花のイマージュ』。中川翔子さんが「アイドルの曲でこれが歌いたい」ということで選んでいただいたんですが。これ非常にね、僕はしょこたんがこれを選んだのが興味深いな、と思いまして。…この、岡田有希子さんの『花のイマージュ』というのはですね…えー、皆さんご存知の通り、岡田有希子さんというのは1986年…の春にですね、自殺されてしまったわけですね。で、この曲は、亡くなる直前にレコーディングされてて。シングルとしては発売中止になってしまったんですが、その後ベスト盤に収録されたということで、非常に曰くつきの曲なんですが。岡田有希子さんというのは、アイドルとして…人気絶頂ですよ。御存知ない方に言いますと、本当にアイドルとして人気絶頂の時に…まぁ飛び降り自殺をしてしまったと。事務所のビルから飛び降りてしまったという、ほんと衝撃的な事件で。僕自身にとってもこの事件が本当に大きくてですね、それまでアイドルファンだったのを、やめてしまったくらいなんですね。それから10年近くやめてしまったんです。それは、この岡田有希子さんの死が本当にショックで。思うところあってやめてしまったんですが。…一方でね、しょこたんがこれを選んだのが面白いっていうのは、要するにね、先週しょこたんが(ゲストで)出て話したりとか、いろんなメディアで彼女が話してたるのを見るにつけですね、まぁお解かりだと思うんですけど…自分の好きな…まぁ、オタクな要素ですよね。そういうのを前面に打ち出して、前面に打ち出すことによって成功している人なわけですよね、アイドルとして。まったくアイドル性を失うことなく。…で、これは多分ね、岡田有希子さんが活躍されてた80年代だったら、おそらくアイドルとして絶対に禁じられていたことなんですよ。例えば、自分の私生活をですね、逐一ブログで…まぁ当時はネットなんてなかったですけども…メディア上で発表したりですね、普通アイドルが好きじゃないような、「女の子が好きだと引かれてしまう」とされているようなことを好きだと言ったり、あと発言とかもですね…まぁしょこたんは頭のいい人ですから、勿論いろいろコントロールしてるにせよ…言いたいことを言っている、とかですね。そういうことって岡田有希子さんの時代のアイドルには有り得なかったわけですよね。だから思うにつけ、しょこたんが成功してるのは今はすごく幸せだろうな、と。彼女が成功して本当によかったと思うんですよ。一方で、岡田有希子さんは、もしあの頃にこういうアイドルの在り方が許容されていれば、亡くなることもひょっとしたらなかったかもな、と思うんですよね。つまりですね、これ別に80年代に限った話じゃなくてですね、そもそもアイドルというものは…皆さん、ちょっとアイドルというものの根本を考えてみてください。まぁ要するに「キレイなかわいい女の子」というのは大前提としてですよ。その「かわいい女の子はこうあるべき」という同世代の異性の男の子たちに作られたイメージというか、虚像というものを演じることこそがアイドルなわけじゃないですか。だからこそ、実際には…未成年でね、まぁ煙草とか吸うのは勿論法律で禁じられてますし、社会通念的にも褒められたことじゃないにせよ、世の中的には同世代でそういうことをする女の子もいっぱいいる中で、やっぱり「アイドルをやっている」という理由だけで、ものすごい世間中から叩かれたりするわけじゃないですか。で、世間だけじゃなくて「イメージを裏切った」ということでファンからも罵られるわけでしょ? それってやっぱりその年頃の女の子にとっては…つまりね、煙草を吸う、ってのは極端な例だったけど、「作られたイメージ」と、実際の10代の生身の女の子としての姿、って物凄いギャップで、実際そのギャップに耐えるってのは、物凄い大変なことだと思うんですよ。本当は青春を謳歌したい時期にできないわけですから。まぁ勿論ね、アイドルという職業を選んでる以上は、ある程度それは承知の上だろう、っていうことかもしれませんが、やはりその構造の残酷さというかね。例えば僕なんかアイドルのすごいファンだから、岡田有希子さんが亡くなった時に、まさに僕らの幻想を押し付けるのがアイドルだとしたら、不可避的に「アイドルを好きだ」ということはイコール「生身の彼女たちを抑圧して傷つけているのではないか」ということに真面目に悩んでしまいまして。で僕は「もうアイドルファンという形で、アイドルという残酷な産業というかシステムに加担するのはやめようかな…」と思って、アイドルファンをやめた、という経緯があったりして。まぁ結局ね、モーニング娘。とかを通じて、またいろんな新しいアイドルの形が出てきて「やっぱりアイドルは面白いな」と思って、アイドルファンにまた戻ってきてしまったんですが、やっぱりなんていうのかな、アイドルっていうシステム特有の抑圧みたいなものは根強くあるな、というのは強く思うわけですよ。まぁ、恋愛の話なんかはその典型ですよね。「男がいる」と、フライデーされました。そうするとまず(一番味方をしてあげなきゃいけないはずの存在の)ファンが率先して叩く、というね。これはどうなんだ、と。特に、けっこういい年してまだアイドルやってるような人はさ、その後の人生だってあるわけじゃないですか。その後の人生をチョイスすることさえ、禁じられてるのか彼女たちは、みたいなね。ちょっと僕はこういう残酷な状況はなんとかならないのかな、と思っていて。で、ひとつの解決策としては、しょこたんみたいにブログなりなんなりで、自分の好きなこと全開にしてやっていけば、開放されるんじゃないかっていうね。吉田豪さんっていう方なんかは『元アイドル』っていう単行本でね、素晴らしいインタビュー集ですけど「どんどん出していけば、それで今の時代は成立するんだから」ということをおっしゃってたりするんですが、僕も本当に同感なんですが。…でですね、さぁ、ここで本日の本題。時間がないぞ、どんどん行かなきゃいけないぞ。本題なんですが、鈴木亜美さんが最近出したシングルで、鈴木亜美joinsキリンジ。キリンジっていうね、非常に洗練されたポップスを作る素晴らしいグループなんですが、そのキリンジとのコラボ企画で「それもきっとしあわせ」という曲がありまして。これがですね、僕が今言ったような「抑圧される存在」としてのアイドル、「イメージを演じさせられる存在」としてのアイドル…まぁ鈴木亜美さんは小室ファミリーのシンデレラガールとして90年代の末に一時代を築いて大成功を収めて。で、その後ですよ、みなさんご存知の通り事務所トラブルで完全にメディアから姿を消してしまうというね、そういう特殊なキャリアがあって。その後2年くらいですか、メディアにまったく出てこないという異常事態ですよ。こんなこと、アイドルの歴史上ないですから。その間、彼女はずっとアイドルではなくアーティストとして…要するに彼女自身が非常にアーティスト志向が強い人なんですよ。で、お人形としてではなく、自分の言葉で自分の歌を歌いたいということで修行を重ねていて、で2年後に非常に特殊な形で再デビューを果たして。要するにあれですよね、日本の芸能産業というか音楽産業のシステムに、ある意味ひとりで立ち向かっていったというね。すごい大変な…まだ若い女の子ですよ? 20代ソコソコの。その子が波瀾万丈のキャリアを経てですね、今はエイベックスに移籍を果たして、安定したキャリアを今は歩んでますわ。なんですけど、汚れを知らない無垢な時代な少女が、いろんなキャリアを経てどこに辿り着いたか、というね。まぁこのキリンジの堀込高樹さんという方の作詞が、ある意味ね、この鈴木亜美という特殊なアイドルの人生、アイドルという抑圧されることを運命付けられている人たちの気持ちをね、冷静に批評もしてるんですよ。批評しつつ、本当の意味であったかい代弁をしてる、恐ろしい歌詞なんです。一言で言えばね「鈴木亜美と、すべてのアイドルと、すべての自分の足で歩くことを禁じられている人たちへ捧げる『マイ・ウェイ』」なんですよ。新時代の、日本語で書かれた『マイ・ウェイ』なんですよ。軽く歌詞の説明をしときますけども。

(歌詞)
『好きな人がいて愛されたなら それはきっと幸せ』
『着たい服を着て言いたいこと言えば それもきっと幸せ』

これね、普通に聞いてると聞き流しちゃう言葉ですけど、要するに「そういう人並みの幸せもそれはいいとは思う」でもそういう幸せはこの主人公は少し諦めちゃってるんですね。

『幼い夢はわたあめのようにしぼんでしまったけれど』

アイドルだった頃の無垢な、希望に満ちた気持ちもしぼんでしまったと。なのに、この主人公はどうしてるかっていうと

『歌いたい歌がある 私には描きたい明日がある』
『その為になら 不幸になってもかまわない』

と歌うわけですよ。これは恐ろしい名曲ですよ。あのね、僕この曲を初めて聴いた時に、iPodで道歩きながら聴いてたんですけど、アイドルファンとして、胸の一番深いところをえぐられたような気持ちになって、ホントにね、道端だったんですけど…号泣してしまいました。…とにかく、自分の言葉で語るのを禁じられてるのはアイドルたちの宿命でもあるんですけど、もしそれを諦めて「自分で作詞したい」とかね、そういう欲求を完全に暖かく肯定しつつも、それは結局その子を不幸にするかもしれない、と。そういうところまで見据えた歌詞なんですよ。なんだけどね、

『この足音だけが通りに響いて迷いも消える』

要するに、孤独を受け入れる覚悟をした者のみが、この道を行けるわけですよ。で、鈴木亜美は、今その道を勇気を持って歩いた。シンデレラの呪いを自ら解いたわけ。だけど、その結果あみーゴが幸せになるかというと、それはわからないわけですよ。そこまで見据えてる恐ろしい名曲です。聴いてもらいますかね。じっくり聴いてください。鈴木亜美joinsキリンジで『それもきっとしあわせ』

(『それもきっとしあわせ』OA)

聴けば聴くほどすごい名曲ですよこれ。まず、さすがキリンジで、これだけすさまじい、戦慄が走るような内容なんですけど、それをできるだけ押し付けがましくなく聴かせるようにね、アレンジとかも抑圧した上品なアレンジをしてるし、あとこの歌のスタンスもね、自分の言葉で歌いたい人、自分の言葉で語りたい人に対して「がんばれば夢は叶うよ」みたいな嘘っぱちは一言も言ってない。むしろこの歌の主人公は、その先にはなにも待ってないかもしれない、というところまでわかっている。う〜ん…すごい曲ですね。みなさん、ぜひ購入して、聴いていただきたいと思いますね。







読みづらくてスミマセン。というか、読むなこんな長文。